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水辺の自然を中心としたブログです。夫婦でやっています。


by 佐野真吾、歩海

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カテゴリ:自己紹介( 4 )

 2019年6月16日深夜、この日、神奈川では6月としては珍しく嵐となった。外は豪雨で、激しい音とともに雷が何度も部屋を照らした。  


午前3時過ぎ、私は突然妻に起こされた。

「ねえ起きて!破水した!」
「うそ!もう産まれるの?予定よりずいぶん早いじゃん!」  

 横須賀じゅうのタクシー会社に電話をかけたがどこもつかまらず、しかたなく職場で車を借りることにした。職場まで自転車を飛ばせば15分だ。相変わらず強風は吹き荒れていたが雨は収まり霧雨になっていた。黒から深い青にグラデーションされた非現実的な景色を眺めながら海沿いの道を疾走した。

 職場の観音崎自然博物館に向かう道すがら、和田川の河口は溢れんばかりに潮が満ち、港の歩道まで波が来ているのが見えた。普段穏やかで美しい「たたら浜」は、前日の嵐と今なお吹き荒れる風で大荒れだった。海が激しくうねり、波は観音崎大橋や浜に降りる階段近くまで達していた。ずいぶん潮が上がっているなと思った。 


 博物館に着き、車の鍵をとって、ふと潮見表に目をやった。
「6月16日、大潮、満潮3時15分、満月」
 そうだったのか。時は満ちたのだ。 

 生物の誕生には大潮が関係しているという話がある。アカテガニやクサフグ、サンゴ、バチヌケなどが良い例だ。1週間前、妻と一緒に「怪獣の子供」という映画を上映初日に観に行った。海で起こる謎を伏線に「生命の誕生」を激しいクライマックスとして表した美しく壮大な物語だ。
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 妻には「子どもが産まれたら映画館行けないし、この映画だけは映画館で観ておきたい!」と言われた。その影響もあってか、帰り道、激しく入り乱れ波打つたたら浜の水際が、これから起こる出産というクライマックスを連想させたのだった。風と波が鳴らす激しい地響きとともに、世界が黒から青に塗り替えられていくこの景色は一生忘れないだろう。


 さて、病院に行くと妻はそのまま入院となった。破水から始まった場合は即入院らしい。でも妻は元気で陣痛もなく、自分で荷物をまとめて、スタスタ歩いている。本当に産まれるのか?と思うほどである。私は妻を病院に残して一度博物館に戻り、この日出張だった愛川町に向かったのだった。
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〈6月16日,午前5時半頃の観音崎たたら浜〉

 この日、私は1日中、眠くて眠くてしかたがなかった。普段なら1日、2日寝なくても何ともないのになぜだろう。行き帰りの電車バスは常時爆睡だった。


 翌日6月17日、午前6時に自然と目が覚めた。そして8時に病院に向かった。陣痛は何度か来ていたようだが、出産に繋がる規則的な波はないようで、妻は昨日と変わらず元気そうだった。そのため実感はまったく湧かなかった。それより、私は昨日から引き続き、眠くて眠くてしかたがなかった。妻の診察のため、部屋から出されている僅かな時間も逃さず寝ていた。

 破水が先だったこともあり陣痛促進剤の点滴を開始し、9時くらいから少しずつ陣痛が始まった。次第に陣痛の周期が短くなっていく。妻は辛そうだが思った以上に冷静であった。「虫とりをしている時にテンションが体力を凌駕したことはある?今それになりたい!」と聞いてきたり、実習の学生さんに声をかけたりしている。病院食が運ばれてきたが、それは私が食べた。妻はパンをひとかじりしただけで、再び陣痛に集中する。陣痛の周期がどんどん短くなり、実習の学生さんが近くで何をしてよいか分からず心配そうにしている。私としてはベテランの助産師さんより学生さんの方が、今は居心地がよかった。


 13時半頃、隣の部屋から産声が聞こえてきた。「さっき隣にいた人産まれたんだ。」隣の部屋から聞こえてくる産声は、鳥や獣のような生き物が産まれる感覚がした。この頃になると私も完全に目が覚め、軽く熱く興奮してきた。眠かったのは自分なりの備えだったのか。そして、診察のため、私は再び外に出された。

 ナースステーションの前の椅子に座って待っていると、病院の中はいつも通り回っていて、現実世界に戻されたような気がした。毎日出産を取り扱っている助産師さんたちにとっては、当然特別なことではないのだろう。自分でいうゲンゴロウやタガメの産卵期に世話に追われるのと変わらないのかもしれない。一人になると再び冷静な自分に戻りあれこれ考え始める。


 7年前のことである。調査で行ったバングラデシュで偶然出産に立ち会ったことがあった。現地の医師が、得意気な顔で「今出産を控えている妊婦がいるんだけど見るかい?」と聞いてきたのだ。さらに「帝王切開で血がいっぱい出るけど大丈夫か?」と聞かれ、なめんなよ!望むところだ!という気持ちと興味本位もあり、見せてもらうことにした。そして、医師に言われるまま割烹着を着て手術室に案内された。手術室に向かう途中、薄暗くベッドもない部屋の床で陣痛に耐えながら順番を待っている一人の妊婦さんがいた。こんなコンクリートがむき出しの部屋で大丈夫なのだろうかと心配になった。
 手術室に入ると、それはドラマで見るような部屋とはまるで違った。通ってきた部屋と同様、コンクリートがむき出しで薄暗く、中央に置かれた少し高いベッドに妊婦さんが寝かされている。辺りを見渡すと、置いてある椅子や流しは屋台で使っているものをそのまま持ってきたのではないかと思うほど粗雑な物だった。帝王切開はすぐに始まった。そして僅か15分足らずで赤ちゃんが腹から引き出された。赤ちゃんはすぐに産声をあげ、流しに運ばれていった。お母さんは起きているようだが麻酔によって意識が朦朧としているようだった。医師には「これで終わりだよ!」と言われ部屋を退出した。最後にお母さんに「産まれたよ!お疲れ様!」と、言語は通じないだろうが声をかけ、手をちょんと触った。お母さんは朦朧していたが、ほのかに微笑み返してくれた。人間の出産を見たのはこれが初めてであった。見る前は人生が変わるのではないかとドキドキしたが、終わってみれば、もちろん感動はしたが、率直な感想として、「生き物と同じだな」と思った。
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〈2012年,バングラデシュの広大な氾濫原〉


 さて、話を戻そう。あれこれ考えているうちに、再び陣痛室に呼ばれ戻ると、さらに陣痛が進んでいるようだった。その後も何度か診察の度に部屋と廊下を行ったり来たりしたが、部屋に戻る度に変化があり、その時が近づいていることがよく分かった。
 14時頃、ついに陣痛の激しさがピークに近づいてきた。私の役割は、妻に言われたタイミングで、腰の硬い部分を押すことである。後から聞くと、妻はこの世の終わりかと思うほど痛かったそうだ。そして嘔吐を繰り返した。しかし、当然余裕はなさそうだが大きな声は出さず、取り乱すこともない。妻はいつもそうだ。小笠原の釣浜で流され死にかけた時も冷静だった。

 何度目の診察後だろうか。部屋から出され15分くらい経つと助産師さんに呼ばれた。赤ちゃんの心拍が下がっており、帝王切開の可能性もあることを告げられた。バングラデシュでのことが鮮明に蘇り、胸のあたりがザラザラとざわついた。生き物の産卵も孵化も脱皮も同じだ。すんなりいかないこと、何があるか分からないことは人間も同じなのだ。バングラデシュの医師の得意気な顔が思い浮かんだ。今思えば、日本人が来て、俺の得意な手術を見せてやろう!といった感じだったのだろう。当時のバングラデシュでは帝王切開が主流になっていたが、実際産後の感染症などのリスク回避技術が発展していない地域であることから、総合的には自然出産の方が良いという意見が出始めていた頃だったという。「そうだ!日本の医療技術はバングラより凄いから大丈夫だ!」と自分に言い聞かせた。

 15時30分、ついに帝王切開の決定を告げられる。「あぁ~あ、ここまで頑張ったのに、帝王切開になっちゃったよ!嫌だな~。回復が遅いんだって!今シーズンは水着で海入れないかもなー!」促進剤の投与を中断し、なんとか話せる状態になった妻が言った。さすがに悔しそうであったが、心配するポイントが海に入れないというところは、良い意味でさすがだと思った。

 それからはバタバタで、手術に必要なレントゲン検査、麻酔科医からの説明等が次々と進められ16時過ぎに同意書を書かされ、16時半、手術開始となった。助産師さんには17時10分くらいには出てきますからと言われ、一人病室に戻った。誰もいない病室で窓から見える景色を眺めると、工事現場とビルが見えて、夕焼けが少し出ていた。お世辞にも美しい景色ではなかったが、冷静な気持ちにはなった。17時10分、言われた通りナースステーション前に行き座って待つことにした。しかし、なかなかやってこない。それまで気丈にしてきた自分が、ここへきて初めて不安な気持ちに支配された。


 17時半過ぎ、赤ちゃんを乗せた車を2人の助産師さんが運んできた。ついに来たか!と思ったが、私の前を通り過ぎていった。なんだ他所の子かとガッカリした。しかし、次の瞬間、「ちょっとちょっと!パパこっちよ!」と、他の助産師さんが叫んだ。すると赤ちゃんを運んでいた2人の助産師さんは笑いながら「えー!すいません!通り過ぎちゃった!」と笑った。それにつられ笑いながら立ち上がり、冷静を装いながら駆け寄った。そして「おめでとうございます!」と助産師さんたちに笑われながら祝福された。哺乳類に時々みられる「我が子の不認識」が危うく行われるところであった。 


 生まれたての赤ちゃんはいち早く触らせてもらえた。おしめを付けて、服を着せて、可愛く気高い泣き声を聞いて、手や足や各部位を触りまくった。そして「あれ?こいつは確かに生き物だけど、ちゃんと人間っぽいぞ!」と初めて思った。それまで赤ちゃんはまったく人間ではない生き物だと思っていた。そして爪の形と足の、特に小指の形が私とそっくりで、自分の遺伝子が入っている実感を持った。
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 その後は、さまざまな管が繋がれ、寝たきり状態の妻と再会し、妻のお母さんが来て、私の実家の家族が総出で来て、バタバタだった。そして、20時半頃、みんなを帰して、ようやく妻と子どもと3人になった。

「名前どうする?」
「俺の意見は変わらないよ。昨日、嵐の中チャリで走った時、たたら浜の激しい水際を見てタイミング良いなって思ったしね。」
「うん。最初はその名前、珍しくて気に入らなかったんだけどね。今はカッコイイ名前だなって思って大きく傾いてるよ。赤ちゃんがお腹から出される時、羊水の中に棲んでいた水生生物が陸上生物に変わっていくのがよく分かった。それがまた名前に合ってると思う。でももう少し考えさせて?」
「分かった。」

「それにしてもさ、予定日19日だったのに、前から16日か17日に気合いで産む!とか言ってじゃん?すげぇな!笑」
「ははは、笑うとお腹痛い!笑」


 帰路についたのは22時過ぎだった。車の中ではB’zとGLAYの出産を唄った名曲を流し、何か感じることはないかと聴きながら帰った。そして、博物館に寄って車を停め、一人たたら浜を歩いた。満月に照らされたたたら浜の水際は、2日前の嵐が嘘だったかのように穏やかだった。それは、クライマックスの終わりと、新たな始まりの場所を連想させるには十分であった。
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 それから5日後、ようやく名前に決着がついた。

 私は思いついたその時から一切揺れることがなく、最初から決まっていたかのように思っていたのだが、妻は、珍しい名前だとこの子が将来苦労しないだろうか?と、本当に最後まで悩んでいた。でもそう言いながらも産まれた次の日から「みーちゃんみーちゃん」と呼んでいた。



「汀(みぎわ)」
 海や川、池など水と陸地が接する水際のこと。水も砂も植物も生き物も人も情報も出来事もそこを通り集まる。そして水の世界にも陸の世界にも通じる始まりの場所である。


 この意味をどう解釈し、理解し、意味を付けるかは、その時その時で違っても良いと思うし、たくさんあっても良いと思う。だから、親が子を思う心も、これからこの子を愛してくれる人たちの心も、この子自身が歩む人生も、すべて広げてくれる自由で可能性に満ちた「汀」という名にした。



〈最後に〉

 普段お世話になっている方々にご報告も兼ねて、気分に酔って、柄にもなくずいぶん長く主観強めに書かせていただきました!(笑) フェイスブックやインスタには恥ずかしくて、お茶らけて書いてしまったのですが、人生でも大きく印象に残るビッグイベントだったので、真面目に感覚的になって書きたいとも思ってしまいました。そして今のこの感覚が薄れていく前に急いで書きました。
 「海を歩くゲンゴロウ」は、妻と結婚した2014年から始めました。自分の中では、水辺の生き物や自然について書く上で、調べたり勉強したり記憶に残したりすることを大事にしたいという思いでやっています。だから、出産についても新たに産まれた水辺の生物に水辺の名前を付けたということで関連づけさせたいと思います(笑)。いつの間にか「海を歩くゲンゴロウ」が子どもメインブログになってしまったなんてことにはならないようにしたいですしね!(笑)
 子どもが産まれて、これからどんな生活になるのか、まだ想像がつきませんが、水辺の生き物に関する活動は変わらず引き続きやっていきたいと思っています。そして、そのうち大きくなった娘と一緒にブログの写真を飾れることを願っています。今後ともよろしくお願いいたします。
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by shingo-ayumi | 2019-06-22 23:51 | 自己紹介 | Comments(4)

海を歩くゲンゴロウのロゴと背景

 ブログ「海を歩くゲンゴロウ」を始めてから2年が経ちました。我ながらよく続いているなぁと感心します。
 それで、いいかげんトップページのデザインを変えようと思って、ロゴと背景をつくってみました。
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〈海を歩くゲンゴロウのロゴ〉
 真ん中のゲンゴロウを中心に、ミナミヤンマ、タガメ、マッコウクジラ、ウツボです。右下から生えているタケノコみたいなのは一応ウツボです。笑
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〈上部の背景〉
 そして上部の背景はこんな感じにしました。
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〈ハナダカトンボの1種,2013年にマレーシアで撮影〉
 上部の写真は、最初ブログを始めた時に、とりあえず夫婦で始めたしこんな感じの写真でいいや!と載せた写真(↑)で、それ以来このままでした。「ブログのタイトルはゲンゴロウなのになんでトンボなの?」と何度かツッコまれたこともあり、確かに!!と思っていましたが、エキサイトブログのデザインスキンのやり方が難しくて放置していました(パソコンオンチなんです。笑) 

 このブログは、書くにあたって、生きもののことを調べたり考えたりするのこともあるので、自分の中では勉強になっていいなと思っています。また、「いつも読んでるよ」と言ってくださる方には、大変嬉しく思い感謝しております。

 というわけで、今後とも海を歩くゲンゴロウをよろしくお願い致します。



by shingo-ayumi | 2016-09-08 02:43 | 自己紹介 | Comments(3)

自己紹介 歩海

こんにちは!

ブログ書き手その2の歩海です。

海に潜ることと、写真を撮ることが大好きです。

このブログでは、さのしんと一緒に潜った海や、湿地のいきものについて、写真を中心にお伝えしたいと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。
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by shingo-ayumi | 2014-08-26 17:24 | 自己紹介 | Comments(0)

自己紹介 真吾

ブログを始めました。

ゲンゴロウやタガメ、トンボなど、水辺の生物と会うために今までいろんなところを旅してきました。

このブログでは水辺の自然を中心に生きもののことや旅の話を投稿していきたいと思います。

よろしくお願い致します。

佐野真吾
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by shingo-ayumi | 2014-08-26 16:41 | 自己紹介 | Comments(0)